今回お預かりしたのは、ビンテージのランプシェード。
落下によると思われる大きな欠損が見られました。
特に難しかったのは、欠損部の破片が残っていなかった箇所です。
既存の破片が揃っている場合は、接着と補強を中心に進めることができますが、
欠損部が完全に失われている場合は、新たに形状そのものを再構築する必要があります。
まず行ったのは、断面の状態確認とクリーニングです。
漆の定着を妨げる要因を除去します。その後、欠損部の芯として麻布を用いました。
麻布は繊維強度が高く、漆を含浸させることで十分な強度を持つ芯材を形成することができます。
麻布による骨格を形成した後、錆漆による肉付け工程に入ります。
硬化を待ちながら、成形と研磨を繰り返し、整えていきました。
下地が安定した後、中塗りと研ぎで表面の凹凸がなくなるまで繰り返し、
最終仕上げとして錫粉を蒔いています。
錫粉仕上げは、金や銀とは異なり、やや落ち着いた白色金属特有の柔らかな光沢を持ちます。
経年によって穏やかに表情が変化していく素材であり、ビンテージの質感とも調和しやすい特徴があります。
また、光を受けた際に反射が強すぎず、陰影が穏やかに現れる点も、照明器具との相性が良い仕上げです。
納品時には、オーナーのbecquet_zushi 様にて実際に取り付けていただきました。
点灯した際、修復部の内側に形成された層構造がわずかに透過し、
光によって陰影が浮かび上がる様子が確認できました。これは修復によって新たに現れた表情とも言えます。
修復後の姿は、破損前と全く同一ではありません。
痕跡を完全に消すのではなく、素材の時間軸を可視化しつつ、
新たな耐久性と景色を与えることが金継ぎの醍醐味でもあります
予測できない要素が多いからこそ、完成に至るまでのプロセスそのものが大きな魅力でもあります。
そして、大切にされてきた器や道具を再び日常に戻すお手伝いをさせていただく中で、
私自身が素材の持つ力や、人と道具の関係性に癒され続けています。

コメント